「キライじゃないけど生理的にムリ!」の脳科学

「キライじゃないけど生理的にムリ!」とは、とあるお笑い芸人(ヒッキー北風)の使った「おちフレーズ」なのですが、実はなかなか含蓄がある言葉なんです。

発言に「軽い矛盾」が含まれているのがポイントで、そこが笑いを誘うツボなのですが、こうした矛盾フレーズって好き嫌いがや良し悪しが微妙なときによく耳にします。英語で言えばさしずめMixed Feeling(交錯した感情)になるのかな。
他にも
男「俺のこと嫌いだろ?」
女「そんなことないけど、でも思ってても言えるわけないでしょ!」
見たいな感じ(笑)。

でも、こうした「軽い矛盾」も人間の脳の構造と機能を理解すれば至極あたりまえなんです。

脳を模式化(モデル化)すると、2つの異なった認知的機能を司る「知覚部位(ただし両者は互いに配線で繋がっている)」がら出来ています。

それらは

「処理が早いのだが大雑把で荒いディシジョン・メーカー(Xシステム)」

「ロジカルなのだがやや遅めディシジョン・メーカー(Cシステム)」
と呼ばれます。

例えば、緊急時でのとっさの判断といった場面では「Xシステム」が働くわけですが、即断する反面(311震災でも散見されたようですが)「トイレットペーパーを馬鹿みたいに買い込んでしまった」とか「慌てていたので食材を調達しすぎた結果、余らせその多くをダメにしてしまった」といった具合に、「後から考えると、なんでだろ?」というオチに繋がりやすいんですね。いわば「裸足で駆けてく愉快なサザエさん」のような半ば「ヘマと言うべきオチ」とのリンクが強い。そして、「自分ってなんでいつもこうなのだろう・・・」といった反省に結びつくもいのの、学習効果が極めて小さい。これが、「Xシステムのアウトプット」の特徴です。

ここで、「後から考えると・・・」といのはCシステムの働きなのですが、何らかの原因でXシステムの判断が強固に支配的なときはCシステムの働きは弱まってしまいます。

特に緊急時ではXシステムのアウトプットは脳内で事実上「ノーチェック」で外部器官へ指示として発令されます(Cシステムによるダブルチェックしていると逆に遅すぎるからです)。ですから、震災など人間は危険や脅威などを強く感じる局面ではXシステムのアウトプットによってのみ従って行動してしまいがちなんです。

更に話を進めると、

Xシステム(早いがそそっかしい、サザエさんみたいな知覚機能)は「情緒・感情・情動(emotion)」の影響を受けやすいことが分かっており、逆にCシステム(ロジカルだが遅い)はemotionの影響を受けにくいことが分かっています。そして、通常時での意志決定では、この両者が共に作用しているんです。ですから、「Xシステムだけでも意志決定できないし、Cシステムだけでも意志決定できない」というのがヒトの意志決定のプロセスの構造です。ちょうど、拍手に「右手と左手の両方が必要」であるように、意志決定という"拍手"でも「XとCの両方」が要るんですね。あるいは、国会のようにXシステムとCシステムの「二院制」で意思決定されるといった感じです。

ただし、前出のように「切羽詰ったとき」は例外的に「Xシステムだけでも意志決定の法案が可決できる」(Cシステムは一時休止)ことが認められています。でも反対に「Cシステムだけで意志決定を可決する」ことは認められていません。ここがミソです。

つまり、CシステムよりもXシステムの方が脳内権限の構造上、「より上位に位置」するということです。「感情」が優先なんですね。例えば、タイトル内にある「生理的ムリ」と言う部分も「感情」つまりXシステムが「ダメ」と決定したんです。

すなわち、「頭では分かっていても(=Cシステムでは「アリ」と判断されても)、生理的にダメ(=Xシステムでは「ノー」と判定)」というのは、こうした脳内でのCシステムとXシステムの葛藤を表現したものであり、やはり人間はXシステム(感情)主導の生き物なのだ、ということが分かります。

こうしたことを理解した上で、更にもうひとつ。

マーケティングなどで
「説明しただけでは売れない、共感を得たら売れる」
と良く言われますが、これも「Xシステム、Cシステムの脳モデル」と使うと理解できます。通り一遍の「説明」だけではCシステムは理解しても、肝心の主導権を握っているXシステムには響かない、従って「売れない」。
他方「共感」というはXシステムの知覚担当領域です。Xシステムが刺激されてOKすると意志決定は容易になされます。ですから「売れる」。

俗に「腑に落ちる」「琴線に触れる」という言葉が昔からありますが、まさに共感や実感を伴った意志決定のことであり、Xシステムがカバーしている分野なんですね。ここの「ツボ」をうまく押せれば商売もきっとうまくいくんです。

これぞまさにコミュニケーションというものの真髄であり、脳を理解すればコミュニケーション・スキルもアップするというもの。

いかがでしょうか「共感」していただけましたか?