#行動経済学セイラー教授 ドラフトでは「外れ1位」に妙味あり

2017年のノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学リチャード・セイラー教授は米NFLでのドラフト指名権の非合理性を研究している。彼の著書「行動経済学の逆襲)によれば、米NFLではドラフト上位指名権を複数の下位指名権と交換するといったように指名権をチーム間で取引できる。そうした取引データを基にしてドラフト指名権の順位相対価値を調べたところ、「ドラフト一巡目の最初(指名順位1番目)」の指名権の価値は「ドラフト二巡目の最初(指名順位33番目)」の約五倍だったという。森永製菓のエンゼルカードで「金なら1枚、銀なら5枚」というフレーズが有名だが、まさにそれだ。一巡目の1回分で、二巡目の5回分が購入できる寸法である。

一方、その後の選手のパフォーマンスを考慮した「余剰価値の順位相対価値」を調べると、ドラフト一巡目の上位の選手よりドラフト二巡目の上位の選手の余剰価値がずっと高かった。つまり、ドラフト二巡目という事実上の「外れドラフト1位」の方が費用対効果でみて最もお買い得だったのである。

ドラフト一巡目の上位指名権が高く評価されすぎている理由について、セイラー教授は
1.自信過剰(「俺の目に狂いはない」という判断の過信)
2.極端な評価(何かにつけて「怪物」「天才」といった"比類なき人材"に好んで仕立て上げる)
3.勝者の呪い(既に株価が過大評価されている現物株のコールオプションを、更に割高なプレミアムで買う、「二階建てミスプライス」)
4.満場一致での合意の錯覚(特定の選手に惚れこむと他のチームも同じように評価していると考えていると思い込む)
5.朝三暮四(「明日の育成より、今日の即戦力」を選好したり、「目の前の勝利」を最優先しすぎる近視眼)

を挙げている。

こうした非合理性は、「ハウスマネー」が豊富になると生じやすいという。懐が潤うとオーナー自らが「大物選手」と獲得するために動くからだ。このことをセイラー教授は「能無しプリンシパル問題」と呼んでいる。

ところで、ドラフト指名権での非合理性に似た現象は企業買収で生じやすいかもしれない。「ハウスマネー」が豊富な会社による“魅力的(に思える)事業”への買収は、ちょうど「ドラフト一巡目上位指名権」の獲得のように、高くつくリスクがあるように思える。特に争奪戦になるとかなり危険な買収合戦になる。バスに「乗り遅れまい」とする姿勢が判断を狂わせるからだ。

一方、「外れ1位(ドラフト二巡目上位指名権)」のような買収もあるようだ。それは大手が再編する際に「独占禁止法への対応で売り出される事業」を獲得する戦略だ。「落ち穂拾い」買収と呼んだりするそうだが、そうした外れ1位への投資とは「残り物には福がある」の格言が示唆するような利点があるのだろう。