改善と競争

米国では大統領選の真っ只中だ。オバマ大統領は最近の演説で「競争(competition, race)」といったキーワードを多用して、米国を活気付けようとしているらしい。しかしながら、「競争」は“切磋琢磨”というポジティブなニュアンスもあるが、含みとして“蹴落とし合い”という陰気でネガティブな側面もあると考える。また、どうしても「他人との比較感」が意識されるので“勝ち組・負け組”といった明暗分けのイメージや、人によっては競争状態を意識すると途端に萎縮してしまうかもしれない。いわば諸刃の言葉だ。

自分としては競争の代替語として「改善」や「向上」を勧めたい。改善も向上も「(過去の)自分自身との比較」に基づいている。他者との比較がニュアンス内にそれほど強く入ってこないので、勝ち負けにこだわるいやらしさ感じもない。どちらかといえば「求道」といった雰囲気が漂っているので爽やかだし、背後に「成長」という陽気な感じのイメージも伴っている。なんとなくやる気が出そうな言葉だ。ナンバーワンではなくオンリーワンという文脈にも沿うと思う。

バカの壁の因数分解

他人と意思疎通を図るのは難しい。そのことを養老先生は「バカの壁」と称し一世を風靡した。半ば国を挙げて一生懸命「コミュニケーション力」を高めようとしているご時世に「バカの壁がある以上、それは無駄だよ」と喝破したのだ。そりゃそうだ。皆様、自分自身が他人様のことをちゃんと理解して差し上げているのかい?それを達成できなくて他人に自分のことを分かってもらおう何ぞ、少々虫が良すぎる。

しかしながら、そもそも「バカの壁」は何から出来ているのだろうか?バカの壁を「成分分解」してみたら少しは何か光明が見えるかしら。
筆者が考えた「バカの壁の成分分解」は次のとおり。


バカの壁
=「言語の壁」×「世代の壁」×「文化の壁」×「スキルの壁」×「理解の壁」×「経験の壁」×「男女の壁」」×「価値観の壁」


各成分は互いに完全独立している保証はないが、以下でどんな内容かを記した、
「言語の壁」・・・ 母国語の相違によって生じる壁
「世代の壁」・・・ 育ってきた時代背景の相違によって生じる壁
「文化の壁」・・・ 育ってきた文化的背景の相違によって生じる壁
「スキルの壁」・・・ 物事の熟達度合いの相違によって生じる壁
「理解の壁」・・・ 物事の理解度合いの相違によって生じる壁
「経験の壁」・・・ 物事の経験差の相違によって生じる壁
「男女の壁」・・・ 性差によって生じる壁
「価値観の壁」・・・ 主観的価値観のの相違によって生じる壁

とある「バカの壁」の源泉がどの成分によって生じているかが判明すれば、対処の使用もありそうなもの。理解の壁によって克服できるレベルのバカの壁ならば理解すればよいだけだ。

みんなが期待すると期待以下の結果に終わる

世の中

「みんなが期待すると結果は期待以下になりやすく、みんなが期待しないと結果は期待以上になる」

という法則のようなものがある。これを「サプライズの相対性の法則」とでも名付けるとすると、起きた結果に対する周りの評価は、結果の絶対的水準ではなく周りの事前の期待に対する相対的水準で決まるということを意味している。

オリンピックなどスポーツイベントなどではいつでもそうだ。周りの下馬評が高ければ高いほど、水準的には悪い結果ではないものの、期待に届かなかったという未達感が失望感に変わる。結局、ネガティブ・サプライズとして片付けられる。

内閣支持率も似たようなものだ。発足時の期待の「発射台」が高いほど、その後ちょっとしたボタンの掛け違いで、その内閣は国民から「裏切られた感」を抱かれやすい。

余計で余分に高い期待は、将来「失望感にかられるリスク」が高まるだけのようだ。

なぜだまされる(4) あいまい×重要=流言

「心理学科の○○先生のゼミに入ると、ハト小屋の掃除を義務付けられる」

立命館大学教授(社会心理学)のサトウタツヤさんは、ある大学で広がったうわさについて調べたことがある。話は事実ではなかったが、心理学科の学生の間で広まり、信じる人間が相次いだ。初めは信じなかったが、同じ話を複数の人から聞いて「本当では」と思い直したひともいた。

「うわさの広がりやすさは、情報の『重要性』と『あいまいさ』の掛け算で決まると心理学では説明されます」とサトウさん。また、同じ関心を持つ集団の中で伝わりやすく、複数の人から話を聞くと信じやすくなるという。

ゼミとハト小屋の掃除には関連性がなく、情報としてはかなりあいまいだ。だが、心理学の学生にとっては、ゼミを決める上で重要な情報と言える。彼らには、このうわさが流布する環境が整っていたのだ。うわさを信じた人は、人に伝えて同意を得たいとの欲求から、そのうわさを流す。半信半疑な人も、真偽を確かめたいために、また流す。

明治大学教授の石川幹人さんは「人間には、うわさや他人の話を信じやすい性質がある」と考える。進化理論を用いて、感情や認知などを研究する「進化心理学」が専門だ。

小集団で生活していた昔、人は仲間の情報を疑わず、信じて共有することが、集団を一致協力させる上で重要だった。そうした性質が今の我々にも残っており「何でも疑ってかかることは、案外難しい」と石川さん。

デマやうわさま非常時には大きく、素早く広がる。その点が顕著だったのが、昨年(2011年)3月の東日本大震災だ。石油コンビナートの事故により、有害物質が雨と一緒に降るので雨にぬれないようにと呼びかけるチェーンメールが、事故発生直後から飛び交った。誰かを助けようといった善意も考えられるが、事実とは違うデマ。しかし、知人に転送する例が相次いだ。簡易投稿サイトのツイッターでも「拡散希望」という言葉をつけ、同様の内容を広める事例が目立った。

 新潟青陵大学教授(災害心理学)の碓井真史さんによると、災害時は、災害時は真実かどうか分からない流言が発生しやすいと言う。「災害時は役立つ情報を求める気持ちが高まり、不正確な情報まで集めてしまう。そうした情報を伝えて不安を共有したいとの思いから、流言を流す側にも回る」

 碓井さんは「ネットやメールで得た情報は、信頼できるサイトなどで確認して欲しい。チェーンメールやデマな転送しないで」と助言する。一呼吸置くのが大事だ。

ネット上でも情報が正しいかどうかを分かりやすくする仕組みが進む。ツイッターを運営するツイッター・ジャパン(東京)は、発言する官公庁や病院、鉄道会社など名称の脇にチェックマークをつけることで、それが公式の情報であると認証する取り組みを広げている。

残念ながら世の中には多くのウソや悪意が出回っている。しかも、真実や有益な情報を装って近づいてくる。その真偽を見極めるのは大変だが、こう意識するのが被害を防ぐ第一歩だ。「私はだまされやすい」と。

(2012年9月8日読売新聞)

[なぜだまされる](3)「有名人の推薦」に同調

ネットで評価…実は宣伝かも

 あるプロスポーツ選手のブログが、ネットで話題になっている。基本的には自分の出場した試合中心の内容だが、時々、自分が使う日用品を取り上げ、「優れもの」「気に入っています」などと薦めたりする。唐突な紹介の仕方に、それを見た人から「ステマ露骨」などの声があがる。

 ステマとは「ステルスマーケティング」の略語。ステルスは隠密の意で、広告と気付かれないようにしながら宣伝する手法を指す。

 この言葉が広まったきっかけは、飲食店の口コミサイト「食べログ」で今年初め、やらせ投稿問題が発覚したことだ。食べログでは、店の料理やサービスなどへの評価を店の利用者が投稿し、点数をつける。それを集計してランキングにする。だが、一部の店舗では、業者に依頼してその店に有利な口コミを投稿し、ランキングを操作していた。食べログはその後、投稿者を認証する仕組みを導入するなど、口コミの信頼性向上策を取った。

 ステマは、店や企業側に有利になるよう情報を操作することができ、客をだます危険性があると指摘されている。

 ステマに使われかねないランキングや口コミを、われわれは重宝しがちだ。野村総合研究所(東京)の塩崎潤一さんは、「日本人には『周りを見る消費』という特性がある。買い物の際、他人がどう思うかを気にするのです」と話す。

 デジタルハリウッド大教授で、ネット上でのマーケティング(市場調査)と心理学が専門の匠英一さんは、日本人は欧米人より、人間関係を大事にし、周囲や自分の信頼できる人に従ったり同調したりしやすい傾向があるという。

 匠さんは、心理学のある実験を紹介する。人が10人写った写真を2種類示す。一つは全員が笑顔、もう一つは中央にいる人だけ笑顔で、他の9人は笑っていないものだ。「中央の人が幸せなのはどちらかと尋ねると、日本人は大抵、前者を選ぶ。周囲と良好な関係を築いていることが全員の笑顔に表れるとみるからだ。欧米人は、中央の人が笑顔なら、一人でも全員でも幸せと答えることが多い」と匠さん。

 好きな芸能人の愛用品が欲しくなるのも、信頼している人に同調したいという心理によるものだ。それを逆手にとり、有名人がブログなどで特定の商品を紹介するという形のステマが存在する。

 ネットの情報に踊らされないためには、やらせ投稿ステマを見抜く目が必要だ。

 ニュースサイト編集者の中川淳一郎さんは、評価の分布の仕方に注目してほしいという。「5段階評価で5が最も多く、4から1へとなだらかに減っていくような分布は、実際の評価も高いと信用できる。逆に、評価が5や1ばかりなどと極端なものは、身内やそこを嫌いな人が操作している疑いがある。評価者の数が少ないものより多いものを参考にするとよい」

 また、有名人が商品を紹介する際、その特徴などを非常に詳しく説明している場合、ステマの疑いがあるという。

 ネットの情報はうのみにしないのが大前提だ。あくまでも参考材料の一つという考えを徹底し、自分の選択眼を養いたい。

(2012年9月14日 読売新聞)

[なぜだまされる](2)目先の利益を望む心理

毎月型投信のリスク軽視

東証が開いた初心者向けの資産運用セミナー。行動経済学の知見とともに金融知識の習得も大事だ(東京都中央区で) 月900円ずつもらうのと年1回にまとめて1万2000円もらうなら、どちらを選ぶだろうか。前者は年間1万800円にしかならないので、後者を選ぶのが合理的だ。

 だが、外資系資産運用会社のフィデリティ投信(東京)が2年前、40〜70代の投資信託保有者に行った調査で、投信の分配金について先のような質問をしたところ、25%が「毎月900円」と答えた。4人に1人が非合理的な投資行動を選んだことになる。

 月給などのない高齢者なら、毎月定期的にもらえる点を優先するのもわかる。だが、現役の40〜50代もほぼ同様だった。年1回分配金を受ける投信の商品もあり、こちらの方が毎月受け取れる「毎月分配型投資信託」より、税制面で有利とされる。それでも、「毎月分配型」は、投信の総資産額の7割以上を占める人気だ。

 名古屋商科大学教授の岩沢誠一郎さんは「行動経済学の立場で見れば、決して意外ではない」と話す。

 行動経済学は、経済学に心理学などの知見を取り入れ、人間がどう行動するかを研究する学問だ。従来の経済学は、人間が合理的に行動することを前提としている。対して行動経済学は、「人間のいいかげんさや気まぐれな面も考慮することで、実態に近い行動を考えられる」と岩沢さん。

 行動経済学では、人間は将来の大きな利益よりも目先の確実な利益を優先しがちとしている。人はせっかちで、1年後のお金が待てないのだ。毎月分配型投信はそんな心理を取り込んだ商品といえる。

 さらに、投資信託はリスク商品だ。分配金の額は減ることもあるし、元本の一部を取り崩して払われもする。そこを理解せず、「だまされた」とトラブルになる例も多い。

 東京都在住の男性(76)は6年前、銀行から「分配金が多い」と勧められ、海外の株式に投資する毎月分配型投信を購入、家族とともに計約5700万円を投資した。だが、経済環境の悪化で、分配金が出る以上に元本が減り、計約1700万円の損を抱えた。分配金ばかりを意識し、元本割れのリスクを軽視したといえる。

 目先にとらわれる行動は多い。例えば、住宅ローンなどの金利を当初数年間引き下げると、飛びつく人が出る。その後の金利次第では他の商品の方が得かもしれないのに、そこまで頭が回らないのだ。

 また、人は極端なものを避ける特性があり、松竹梅のように価格を3段階に分けると、真ん中を選びがちになる。販売側が真ん中の価格を高めに設定すれば、利益を増やすことも可能だ。

 日本銀行企画役の福原敏恭さんは「行動経済学の知見を金融教育に取り入れれば、消費者の行動を改善できる可能性がある」とみる。イギリスでは、家計管理や金融商品の選択について面談や電話などで助言するサービスにより、その人の行動上のゆがみを自覚させ、行動の改善につなげる成果が出ているという。

 業者の意図に乗せられないよう、消費者も行動経済学に関心を持っておきたい。

(2012年9月13日 読売新聞)

[なぜだまされる](1)涙声の「身内」 判断力奪う (読売新聞から)

「知っていたのに」「注意していたはずが」と言いながら、我々はだまされたり、うそを信じたりしてしまう。そこには人間の心理を巧みについた仕掛けがある。なぜだまされるのかを理解し、そのうえで被害防止策を練りたい。

振り込め詐欺 聞き分けられず

振り込め詐欺を判定するシステムを設けた電話機。「示談」「補償」「還付金」など、詐欺で多用されるキーワードを検出し、判定に役立てる(岡山市で) 「後で電話します」と友人にメールで連絡し、しばらくして、電話をかける。「もしもし、私だけど」――。でも実際に電話したのは別人だ。

 立正大教授の西田公昭さん(社会心理学)が大学生を使って行った実験だ。振り込め詐欺の一種、オレオレ詐欺の手口をまねて、だまされるかどうかを調べた。その結果、「電話を受けた人の約6割が、友人本人がかけてきたものと疑わなかった」と西田さん。

 今なお全国で年6000件以上発生する振り込め詐欺。その多くが、手口を知っていたのにだまされている。

 「身内の声を聞き間違えるはずがない」と思いがちだ。だが西田さんによると、人間の耳は、音声だけでは誰の声か正確に判別できない。実際は、声や話し方の特徴を手がかりに、当てはまりそうな人を脳内で探していくという。この特性は、高齢者だけでなく若者にもある。

 だます側はわざと涙声などで話すことが多く、より聞き分けにくくなる。「身内」を名乗られると、まずは本人と考え、少しでも本人らしい特徴を拾うと、そう思い込む。「一度思い込んだら、人はつじつまの合う話や都合のいい話ばかりを求め、おかしな点があっても無視してしまう」と西田さん。

 こうした心理状態は、心理学で「確証バイアス」と呼ばれる。バイアスは先入観や偏りの意。先入観を訂正するのは難しいのだ。

 さらに心理面のわながある。人が意思を決定する際には、「直感的な判断」と「熟慮の上での判断」という二つのメカニズムがある。普段はそれを適宜使い分けているが、身内が緊急事態だと聞かされると、判断までの時間が短い「直感」に傾く。冷静な判断能力を奪われてしまう。

 西田さんは「単に『振り込め詐欺に注意を』と言うだけでは解決しない。災害に備える避難訓練のように、詐欺の手口と対処法を疑似体験できる訓練が必要だ」と話す。

 訓練の試みも始まっている。埼玉県警浦和署は7〜8月、管内のさいたま市の高齢者を対象に、「振り込め詐欺防止検定」を実施した。

 「電話番号が変わった」などと伝えてくる予兆の電話から、振り込みに至るまでを問題にし、その都度とるべき行動や間違った対応を選ぶ。被害例を実践的に学べるので、受講後に振り込め詐欺の電話を撃退した人もいるという。

 先端技術での対処も進む。岡山県では8月から、電話相手が振り込め詐欺かどうかを判定するシステムの実証実験が行われている。

 名古屋大学富士通(東京)が共同開発したこのシステムは、電話相手の言葉から特有のキーワードを検出するとともに、電話を受けた側の声の高さや大きさから、相手を信じ込んだ心理状態になっていることを推定。受話器を置くと、音声で「振り込め詐欺の恐れがある」と注意喚起する。

 大事なのは、「だまされる理由」があると知ることだ。根拠もなく「自分だけは大丈夫」と過信すれば、犯罪のプロの思うつぼとなる。

(2012年9月12日 読売新聞)