[なぜだまされる](2)目先の利益を望む心理

毎月型投信のリスク軽視

東証が開いた初心者向けの資産運用セミナー。行動経済学の知見とともに金融知識の習得も大事だ(東京都中央区で) 月900円ずつもらうのと年1回にまとめて1万2000円もらうなら、どちらを選ぶだろうか。前者は年間1万800円にしかならないので、後者を選ぶのが合理的だ。

 だが、外資系資産運用会社のフィデリティ投信(東京)が2年前、40〜70代の投資信託保有者に行った調査で、投信の分配金について先のような質問をしたところ、25%が「毎月900円」と答えた。4人に1人が非合理的な投資行動を選んだことになる。

 月給などのない高齢者なら、毎月定期的にもらえる点を優先するのもわかる。だが、現役の40〜50代もほぼ同様だった。年1回分配金を受ける投信の商品もあり、こちらの方が毎月受け取れる「毎月分配型投資信託」より、税制面で有利とされる。それでも、「毎月分配型」は、投信の総資産額の7割以上を占める人気だ。

 名古屋商科大学教授の岩沢誠一郎さんは「行動経済学の立場で見れば、決して意外ではない」と話す。

 行動経済学は、経済学に心理学などの知見を取り入れ、人間がどう行動するかを研究する学問だ。従来の経済学は、人間が合理的に行動することを前提としている。対して行動経済学は、「人間のいいかげんさや気まぐれな面も考慮することで、実態に近い行動を考えられる」と岩沢さん。

 行動経済学では、人間は将来の大きな利益よりも目先の確実な利益を優先しがちとしている。人はせっかちで、1年後のお金が待てないのだ。毎月分配型投信はそんな心理を取り込んだ商品といえる。

 さらに、投資信託はリスク商品だ。分配金の額は減ることもあるし、元本の一部を取り崩して払われもする。そこを理解せず、「だまされた」とトラブルになる例も多い。

 東京都在住の男性(76)は6年前、銀行から「分配金が多い」と勧められ、海外の株式に投資する毎月分配型投信を購入、家族とともに計約5700万円を投資した。だが、経済環境の悪化で、分配金が出る以上に元本が減り、計約1700万円の損を抱えた。分配金ばかりを意識し、元本割れのリスクを軽視したといえる。

 目先にとらわれる行動は多い。例えば、住宅ローンなどの金利を当初数年間引き下げると、飛びつく人が出る。その後の金利次第では他の商品の方が得かもしれないのに、そこまで頭が回らないのだ。

 また、人は極端なものを避ける特性があり、松竹梅のように価格を3段階に分けると、真ん中を選びがちになる。販売側が真ん中の価格を高めに設定すれば、利益を増やすことも可能だ。

 日本銀行企画役の福原敏恭さんは「行動経済学の知見を金融教育に取り入れれば、消費者の行動を改善できる可能性がある」とみる。イギリスでは、家計管理や金融商品の選択について面談や電話などで助言するサービスにより、その人の行動上のゆがみを自覚させ、行動の改善につなげる成果が出ているという。

 業者の意図に乗せられないよう、消費者も行動経済学に関心を持っておきたい。

(2012年9月13日 読売新聞)