[なぜだまされる](3)「有名人の推薦」に同調

ネットで評価…実は宣伝かも

 あるプロスポーツ選手のブログが、ネットで話題になっている。基本的には自分の出場した試合中心の内容だが、時々、自分が使う日用品を取り上げ、「優れもの」「気に入っています」などと薦めたりする。唐突な紹介の仕方に、それを見た人から「ステマ露骨」などの声があがる。

 ステマとは「ステルスマーケティング」の略語。ステルスは隠密の意で、広告と気付かれないようにしながら宣伝する手法を指す。

 この言葉が広まったきっかけは、飲食店の口コミサイト「食べログ」で今年初め、やらせ投稿問題が発覚したことだ。食べログでは、店の料理やサービスなどへの評価を店の利用者が投稿し、点数をつける。それを集計してランキングにする。だが、一部の店舗では、業者に依頼してその店に有利な口コミを投稿し、ランキングを操作していた。食べログはその後、投稿者を認証する仕組みを導入するなど、口コミの信頼性向上策を取った。

 ステマは、店や企業側に有利になるよう情報を操作することができ、客をだます危険性があると指摘されている。

 ステマに使われかねないランキングや口コミを、われわれは重宝しがちだ。野村総合研究所(東京)の塩崎潤一さんは、「日本人には『周りを見る消費』という特性がある。買い物の際、他人がどう思うかを気にするのです」と話す。

 デジタルハリウッド大教授で、ネット上でのマーケティング(市場調査)と心理学が専門の匠英一さんは、日本人は欧米人より、人間関係を大事にし、周囲や自分の信頼できる人に従ったり同調したりしやすい傾向があるという。

 匠さんは、心理学のある実験を紹介する。人が10人写った写真を2種類示す。一つは全員が笑顔、もう一つは中央にいる人だけ笑顔で、他の9人は笑っていないものだ。「中央の人が幸せなのはどちらかと尋ねると、日本人は大抵、前者を選ぶ。周囲と良好な関係を築いていることが全員の笑顔に表れるとみるからだ。欧米人は、中央の人が笑顔なら、一人でも全員でも幸せと答えることが多い」と匠さん。

 好きな芸能人の愛用品が欲しくなるのも、信頼している人に同調したいという心理によるものだ。それを逆手にとり、有名人がブログなどで特定の商品を紹介するという形のステマが存在する。

 ネットの情報に踊らされないためには、やらせ投稿ステマを見抜く目が必要だ。

 ニュースサイト編集者の中川淳一郎さんは、評価の分布の仕方に注目してほしいという。「5段階評価で5が最も多く、4から1へとなだらかに減っていくような分布は、実際の評価も高いと信用できる。逆に、評価が5や1ばかりなどと極端なものは、身内やそこを嫌いな人が操作している疑いがある。評価者の数が少ないものより多いものを参考にするとよい」

 また、有名人が商品を紹介する際、その特徴などを非常に詳しく説明している場合、ステマの疑いがあるという。

 ネットの情報はうのみにしないのが大前提だ。あくまでも参考材料の一つという考えを徹底し、自分の選択眼を養いたい。

(2012年9月14日 読売新聞)