なぜだまされる(4) あいまい×重要=流言

「心理学科の○○先生のゼミに入ると、ハト小屋の掃除を義務付けられる」

立命館大学教授(社会心理学)のサトウタツヤさんは、ある大学で広がったうわさについて調べたことがある。話は事実ではなかったが、心理学科の学生の間で広まり、信じる人間が相次いだ。初めは信じなかったが、同じ話を複数の人から聞いて「本当では」と思い直したひともいた。

「うわさの広がりやすさは、情報の『重要性』と『あいまいさ』の掛け算で決まると心理学では説明されます」とサトウさん。また、同じ関心を持つ集団の中で伝わりやすく、複数の人から話を聞くと信じやすくなるという。

ゼミとハト小屋の掃除には関連性がなく、情報としてはかなりあいまいだ。だが、心理学の学生にとっては、ゼミを決める上で重要な情報と言える。彼らには、このうわさが流布する環境が整っていたのだ。うわさを信じた人は、人に伝えて同意を得たいとの欲求から、そのうわさを流す。半信半疑な人も、真偽を確かめたいために、また流す。

明治大学教授の石川幹人さんは「人間には、うわさや他人の話を信じやすい性質がある」と考える。進化理論を用いて、感情や認知などを研究する「進化心理学」が専門だ。

小集団で生活していた昔、人は仲間の情報を疑わず、信じて共有することが、集団を一致協力させる上で重要だった。そうした性質が今の我々にも残っており「何でも疑ってかかることは、案外難しい」と石川さん。

デマやうわさま非常時には大きく、素早く広がる。その点が顕著だったのが、昨年(2011年)3月の東日本大震災だ。石油コンビナートの事故により、有害物質が雨と一緒に降るので雨にぬれないようにと呼びかけるチェーンメールが、事故発生直後から飛び交った。誰かを助けようといった善意も考えられるが、事実とは違うデマ。しかし、知人に転送する例が相次いだ。簡易投稿サイトのツイッターでも「拡散希望」という言葉をつけ、同様の内容を広める事例が目立った。

 新潟青陵大学教授(災害心理学)の碓井真史さんによると、災害時は、災害時は真実かどうか分からない流言が発生しやすいと言う。「災害時は役立つ情報を求める気持ちが高まり、不正確な情報まで集めてしまう。そうした情報を伝えて不安を共有したいとの思いから、流言を流す側にも回る」

 碓井さんは「ネットやメールで得た情報は、信頼できるサイトなどで確認して欲しい。チェーンメールやデマな転送しないで」と助言する。一呼吸置くのが大事だ。

ネット上でも情報が正しいかどうかを分かりやすくする仕組みが進む。ツイッターを運営するツイッター・ジャパン(東京)は、発言する官公庁や病院、鉄道会社など名称の脇にチェックマークをつけることで、それが公式の情報であると認証する取り組みを広げている。

残念ながら世の中には多くのウソや悪意が出回っている。しかも、真実や有益な情報を装って近づいてくる。その真偽を見極めるのは大変だが、こう意識するのが被害を防ぐ第一歩だ。「私はだまされやすい」と。

(2012年9月8日読売新聞)