書評2012年11月

休暇中に読んだ本について備忘録代わりに記しておく。

『入社10年目の羅針盤 岩瀬大輔著』
岩瀬氏はネットライフ生命を創立し、その副社長を務める実業家だ。本の中で彼が以前にコンサルティング会社に勤務していた様子やリップルウッド時代のことが書かれている。彼にも「宮仕え」のころがあったようだ。
もうひとつの著書「入社一年目の教科書」も拝見したが、そこで組織に与えうる新人の有益性として「(組織人と化した先輩諸氏に比べて)先入観のない目線でものごとを見れるし、そうした意見は貴重だ」という鋭い指摘と、「新人を教育することで、実は先輩の教育にもなるのだ」という教育のインタラクション効果を述べていたのが印象的だったので、彼による「10年選手向けの本」にも目を通してみた。

心に残った点は
1.他人の力を借りる(特に上司)
2.「おもてなし」の心意気を忘れずに
3.「人脈」という言葉のいやらしさ(著者はこの語があまり好きではないそうだ)
4.1つの真実・1つの正解があるわけではない
5.仕事をスムーズに進めるためには徹底した情報公開を
6.立場の違いが対立を生むので相手のメガネをかけて世界がどう見えるのか想像してみよう

といった点だ。

1の「他人の力を借りる」は他人に依存するというのではなく、全部が全部自分でまかなえない以上、積極的に外部ソースを活用して、仕事の効率を上げて、てこを効かせるということだそうだ。そうした活動は一種の社内コミュニケーションにも繋がるし、相乗効果を生むとのこと。

2の「おもてなし」とは、例えばメールだけで済ませるのでなく、電話やプリントアウトといった面倒な「ひとてま」をかけることで「相手(顧客や仲間)」に自分のアウトプットを印象付けると同時に単純接触によって好印象も持ってもらうということのようだ。
あるいは、おもてなしというとモノの贈答を連想するが、必ずしも「モノ」を与えるのがおもてなしではなく、人を紹介するなど機会や場の提供でもよいというのが岩瀬氏の持論だ。

3の「人脈」では気の会う相手や波長の合う相手と普通に付き合えばよく、あえて特別に何かするのは下心があってかえっていやらしい、というのが著者の考え。人脈という語感に含まれる「自らのために他人を利用しようと目論むスケベ根性」が嫌いだそうだが、同感だ。

4は実社会において当然といえば当然なのだが、しばしば大学院修士や博士まで進んで「答え用意された演習の世界」をたっぷり満喫してしまった輩に、「AとBでどっちが正しいと思いますか」といった二者択一式単純思考をもつ連中が数多く見受けられる。こうした「高学歴な単細胞」は理系に多いが、実戦においては正直うざいだけだったりする。

5の情報公開が大事な点は認知心理学行動経済学などでも立証済みだ。実験によれば、互いに情報の共有がなされているグループと、互いに断片情報しか与えられていないグループとでは、意思決定の能力に格段の差がでるそうだ。互いに断片情報しか持ち合わせていないと、まるで「ジグソーパズルを解く」ので精一杯になり、前向きなことは何も決められなくなるといったことが報告されている。

6の「他人の立場にたつ」は案外難しい。案外互いにみんながみんな他人の立場に立って考えているつもりだったりするからだ。そうした「他人の立場に立っているという自分勝手な思い込み」をどうやって自覚させて、同時にどうやって除去したらよいのだろうか?うーむ、実に悩ましい。