時代と広告

2012年7月15日付日経新聞朝刊の32面(文化面)で、コピーライターの仲畑貴志氏の記事が乗っていた。「時代と広告のまわり」との題名で広告の役割だけでなく、彼なりの世界観や人生観の書かれている(もっともこの「文化面」は、当該分野を「生涯の活動」、はたまた「人生そのもの」として取り組んだ方々による出稿なので、往々にして人生訓が入り込みやすいが)。印象的な部分を要約してみた。

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広告は商業活動の表現だからビジネスそのものである。同時に、商品作りとしてのファッションが生活文化となることを見れば、文化を形成する要因である。

企業と話し合うまではそのような処方が効果的であるかわからない。実際、内科的問題で依頼されたが、商品の機能や装備には問題は無く、むしろ、デザインに改良の余地があったりする。この場合は整形外科的な視点から仕事を始めることにする。

広告表現は
1.何を言うか(訴求ポイント)
と設定して
2.如何に言うか(表現手法)
へと進める。

1.何を言うか(訴求ポイント)について
訴求ポイントは1980年代を境にして変わった。「やすかろうわるかろう」「国産品愛用」といっていた時代は、品質が勝負だった。

ところが日常消費財の品質が均一化した。まずいビールはないし、その冷蔵庫もよく冷える。現在流通している商品の基本品質が微差になった。品質訴求の時代は「良いか悪いか」で選ばれてきたが、現代は「好きか嫌いか」で選ばれる。結果、ほとんどの広告が好きになってもらうためのイメージ訴求型となった。

2.如何に言うか(表現手法)について
コマーシャルの爛熟から、下心が見えてしまった。どんな技を見せようと「売りに来たのでしょ」とバレている。広告はウケても、商品は売れないという現象が見られ出した。広告を消費して、商品の購買に至らない視聴者の出現である。

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そこで、3.どこでいうか(接触の場)と、4.どう設計するか(仕組み作り)が重要になった。消費者の態度の変化に加えて、インターネットの拡充ゆえである。

例えば、大学が学生を集める場合、どこで訴えるか?マスメディアでは対顧単価が合わない。もっと本人に直接訴求できないか?より肉薄する接触方法の開発が必要ではないか?と発想して行く必要がうまれた。

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マーケティング
ターゲット
メディアミックス
ブランディング

なぜ広告屋はカタナカを多用するのだろう?

例えば、コンセプト。
会議で幾度と無く発せられるこの言葉の意味(ニュアンス)は実にあいまいである。まさか「概念」ではないだろう(辞書編纂ではあるまい)。

人によってコンセプトとは何か?に対する見解はさまざま。
「商品の価値の発見」
「広告の中心となるアイデア
「商品と人、商品と生活にまたがる橋のようなもの」
「ある商品の価値を、消費者の手に届けやすくするトンチ」
など。

わたしは「効率よく売るための工夫」と捉えている。が、いずれにしてもこれだけ意図の定まらない言葉は使わない方がよい。共通同一の語意を持たなければ、精妙な会議は成立しない。

仕事はすべて英語でという企業があるが、行き過ぎではないか?

言語より内容、無論、内容も言語も豊穣であれば言うことはない。しかし、よき研究開発者が、すべて英語上手ではない。英会話力と頭の良さは一致しないから、英語力を理由に優れた人を逃す損失は大きい。マンハッタンのバーワリーあたりのジャンキーでも英語は流暢だ。

なお、言語は文化だから、他の国の消費者に訴求するコピーは、むずかしい。国ごとの、今を生きる人々の心を奪うには、その歴史や文化に根ざした価値観、思いや想いを深く呼吸していなければ、こさえにくい。

また、広告は「効率を至上とする表現」である。投資効率からして、異なった文化を越えての訴求には無理がある。単純に、巌流島に材をとったコマーシャルに欧米の人が深くうなずくだろうか?

「広告の投資効率」を求めるとなると、世にあまたある「広告費」は参考程度にしかならない。現在の広告効果測定法では、長く投下した広告が上位となる。重要なのは「表現効果係数(クリエイティブ係数)」である。

消費者に到達し、心を奪った量を、広告投下量で割る。投資単価当たりの効果が明らかになれば、あらゆる広告費の意味が変わるだろう。そして、またクリエイティブ係数の高い広告表現を見れば、その国の生活文化の程度や未来への願望もおのずと理解できる。



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なるほどと思う箇所がたくさんあった。
製品の「良し悪し」から「好き嫌い」へ、というのも、言われ始めてから既に久しい(30年くらいか)。感じるのは既存メディアを通じた広告の訴求力は格段に衰えたなあ、ということだ。自分などは広告に対し、「押し売り」のイメージを通り越して「だまし・詐欺」のイメージすら覚える。

ある財や材を用いた「有効活用術」といったレシピや必勝法や、利用者のレビューや統計などが意味を持つのだろう。