「グーグル検索に潜む牙」(2012年4月29日日経12面記事より)

2012年4月29日付日経新聞の12面「日曜に考える」の欄で、ちょっと考えされられる記事があった。記事の内容はこうだ

「会社から退職勧奨されたAさん。会社に理由を求めると、あなたとの犯罪行為の関わりが書かれたウェブサイトが存在しているとの回答。Aさんは否定したが、会社の態度は変わらないので転職を決意した。しかし、転職活動中もネット上の書き込みが原因で内定が取り消されたりする。実際、グーグル上でAさんの実名で検索すると犯罪を連想させる言葉が実名と共に勝手に候補語として並んで表記された。それらをクリックするとAさんを中傷するサイトに行き着く。そして“Aさんが犯罪者であるような印象を与えるとのこと”(採用担当者の談)だった」

「調査会社の調べで1万件以上の中傷サイトが存在したことが判明。Aさんらが事実無根の内容を記載しているウェブ・サイトに勝手に到達する原因を探ると、「グーグル・サジェスト」と呼ぶ検索機能が関与していることを突き止めた。」

「Aさんはグーグルに削除を要請したが応じて貰えず、2011年10月、グーグルの米国本社を相手取り。表示指し止めを求める仮処分を東京地裁に申し立てた。」

「2012年3月19日、東京地裁はAさんの申し立てに対して仮処分決定を出し、“Aさんの名前と組み合わせて犯罪を連想させるキーワードを表示することをやめよ」とグーグルに命じた。」

「グーグル側は、“サジェストの結果は機械的なもので恣意的な要素は入らない”と主張したが、裁判所は特別な処置を取るように指示したことになる。しかし、4月下旬になってもグーグルは停止の措置を講じていない」

大まかな経緯は以上である。ネット上での中傷問題でややこしいのは被害者(ここではAさん)と加害者(書き込んだ人物、X氏とでも呼ぶことにする)が直接やりあうのではなく、グーグルなどネット情報の「流通業者」が事実上の当事者になるということだろう。

この場合、グーグルは恣意を排除した「アルゴリズム」を盾に防戦しているようだが、多くのネット上の情報流通業者は別に自分が書き込んだわけではないので「知らぬ顔の半兵衛」といった態度を貫き通す。この「白を切る」姿勢のせいで、ネット情報関連業がいつまでも半人前扱いで「遊びの延長」という目でしか見られない根源だと思われる。「業(なりわい)」としての「流通」には、情報のトレーサビリティといった「流通」なりの見識が必要なはずだ。しかし、ネット上の情報流通業にはそれが不在だ。長い目でみて損だろう。

また、グーグルの「恣意性の排除」という指摘も疑わしい。いかなる数学的アルゴリズムや解析モデルも考えたのは人間であり、その開発段階では大いに人間の恣意的判断が必ず入る。

どんな変数を用いて、どんな処理をして、どんな公式に基づいて、どんな結果を表示するかといったプロシージャーを考えるのは人間の仕事であり、その際の意思決定には、むしろ恣意性こそが物を言うはずだ(私の仕事もそれ似ている部分がある。それゆえ、モデルの開発は「えいや!」の世界に間違いないと断言できる。)。純粋無恣意発生的に出てくるわけがない。そのあたりをグーグルはどう考えているのだろう。
その上、グーグルの検索エンジンにおんぶに抱っこの各種検索サイトなども「一蓮托生」だ。

テキストマイニングといった自然言語処理プロセスがキーなのだろうが、ネガティブ・ワードのディクショナリー(ブラック・ディクショナリー)でも作成して、それと参照をさせながら検索実行をかけて根拠薄弱な個人の中傷文を掲載しないようにする工夫は直ぐにでもできそうな気がする。