吉野家シンドローム

牛丼最大手、吉野家が苦戦している。「値下げキャンペーン」も頻発気味ゆえ、もう効かなくなってきた。そもそも牛鍋丼なる“牛丼そっくりさん商品”を280円という低価格で常に販売しているのだから、たまに380円の牛丼を同じ価格まで値下げしても意味がなさそうだ。

吉野家の長期低迷(に結果的になってしまったが)のきっかけはBSE(当時は狂牛病と称していたが)による米国産牛肉の輸入停止措置だ。吉野家は米国産牛肉を使用しており、味の連続性を維持するためには豪州産に切り替えたのでは不可能であると判断し、牛丼の販売をやむなく停止した。結局、他のライバルの牛丼屋よりも牛丼単品依存度の高い吉野家は苦境に陥る(豚丼など代替メニューは提供するものの・・)。しかしながら、飽くまでこれは「一時的」な現象であり、米国産牛肉の輸入再開に伴って吉野家は普通の状態に「復活する」はずだったのだが・・・。

さて、ここからは私の仮説だ。吉野家が牛丼を販売しない間でも、「牛丼が食べたい人」はいるし、牛丼を食べるとしたら「吉野家でしか食べない人」もいるだろう。当時、「吉野家でしか食べない人」が「牛丼を食べたい」と思ったら、どうするか?仕方がないので、他の牛丼屋に行くしかない。吉野家は創業100年以上の歴史ある最大手であるが、他の二社は「模倣で後発」であるから、なんちゃってな感じがするけど、行ってみるか。てな具合で、お客がライバル牛丼屋に行ったところ、案外「あり」かなと思ってしまう。何度も行けば味にも慣れてこよう。その結果、両者に価格の差以上の価値の差はないと判定されてしまう・・・。そうなると、もうお客は戻ってこない。

吉野家には不幸にも以上のようなことが起きてしまっていて、未だに取り返せないでいるのではなかろうか?これを吉野家シンドロームと呼ぶことにすると、極めた似た状態にある産業がある。「自動車」である。

東日本大震災の影響で日本車の生産と出荷がストップしたが、これぞ「牛丼の販売をやむなく停止した吉野家」に酷似する。それでも、自動車を買いたい人は韓国車などに流れたそうだ(販売シェアの変動もそれを如実に物語る)。日韓で価格差は、同クラスの車同士で50万円から100万円あるらしい。でも、ここで「両者に価格の差以上の価値の差はない」と判定されてしまったら日本の車メーカーは、吉野家のようになってしまう。

対処法を間違えたり、甘く見ていると吉野家シンドロームによる長期低迷が待っている。案外、危ない状態にいるのかもしれない。