「大卒男子初任給 最高と最低で5万円以上の差」とれまがニュースより

「とれまがニュース」という耳慣れないサイトにあった記事だ。
記事元はこちら
http://news.toremaga.com/politics/country/366316.html

一部転載すると
厚生労働省の平成23年賃金構造基本調査で大学卒業者の初任給は男子が20万5000円、女子が19万7900円となり、ともに前年より2.3%増えたことが分かった。一方、高卒では男女ともに前年より低くなっていた。

 また、初任給が最も高い「学術研究、専門・技術サービス業」の男子大卒(24万8300円)と最も低い「医療・福祉」の大卒男子(19万2200円)との間で5万6100円もの差が生じていた。医療、福祉産業分野は大卒男子平均初任給からみても9800円低く、高齢社会の中にあって医療、福祉産業が担う役割が大きいだけに賃金面でも他の産業に比べて新卒者にとって魅力のある業界に育てていく必要があり「仕事がきつい割に給料が低い」といわれる課題を改めて浮き彫りにしている。」

とあった。

わずか5万円の差とはいえ、「学術研究、専門・技術サービス業」の給与が高く、「医療・福祉」が低いそうだ(いずれも大卒男子平均で比較)。「平均」なので例外もあると思われるし、そもそも平均値はサンプルが少なかったり、一部の異常値が存在したりすることで上ブレしたり下ブレしたりする。例えば、ビルゲイツのような大資産家の息子が通う学校の「親の平均年収額」はとんでもない数字になるだろう。なので、平均値にはバイアスがかかりやすいという点に留意したい。

したがって、平均値の差が実体の差そのまま表していると限らないが、上述の「学術研究、専門・技術サービス業」と「医療・福祉」の5万円の違いが有意なものだとしよう。

まず「学術研究、専門・技術サービス業」というのが具体的などんな職種なのかずばりと分かりにくいが、言葉のニュアンスから察するに「何らかの研究開発に関わるシゴト」なのだとう。「医療・福祉」と言えば「普通の病院勤務から介護といった職務」が連想される。両者の賃金差異は、一体どこから来るのだろうか。

まず第一に「稼ぎ元のソース」だろう。「研究開発」のソースは企業などでは稼いだ「利益」だ。他方、「医療・介護」のソースは患者から徴収する診療費も含まれるが多くは健康保険などの「バジェット(予算)」であろう。稼ぎにリンクしているか、予算にリンクしているかという違いが想定される。予算よりも稼ぎ(利益)の方がアップサイドのポテンシャルは大きい。初任給は「そうしたポテンシャルの違いを反映して決まっている」ということも考えられよう。

第二に、研究開発費も医療費もお金を「支出する」という視点からすれば同じ行為なのだが、その質的な意味合いが異なってくる。研究開発費の場合、将来の成長乃至は発展のためという意味合いから、会計上の処理などでも「資産計上」されることがあるように、「潜在将来性」や「潜在資産性」があると見なされる(これも一種のポテンシャルだ)。「将来の資産のために今現在犠牲になるもの」というカラーがあるので、「単なるコスト」というより「資本投資」のように扱われるのだ。

他方で、医療費の場合は「コスト」として扱われるケースが多い。企業でも従業員の健康診断費用は「人件費」だ。これを「人的資本に対する投資」とでも見なしてくれればよいのだが、現状ではコストでしかない。

こうした「投資かコストか」という扱われ方の差が5万円の差に繋がっている気がするのである。医療は衣食住や光熱費と並んで事実上の生活必需品目だと思われるのだが、一般論として残念なことに生活必需品に近づけば近づくほど、どんどん「費用」のような扱われ方をするのも事実だ。身の回りのものを見ても、「ぜいたく品」だったものが「必需品化」にすることで価格も下がる(逆に、価格が下がるから必需品化するのかもしれないが)そして費用のようなものは不景気時において常に削減の対象として扱われる。

他方、設備投資のようなものは不景気時でも何とかそれ確保しようと努力する。それはまさに経済活動において「種籾」のようなものだからだ。5万円の差というのは「種籾までも食べてしてしまうと、後々本当に困った事態になる」ということを広く世の中が理解している。

もっとも、研究開発などの投資行為の場合、「蒔いた種が必ず生える」とも限らないので、それはそれでリスクを伴う行為なのだが、それでも止めるわけにはいかないのが研究開発なのである。

このような背景の違いは将来変わりうるかもしれないが、それには医療費が研究開発等と同様にポテンシャルのある投資行為として見なされる必要性があると思われる。