異才の優勝監督の辞任

古い話題だが、落合中日ドラゴンズ監督が任期満了に伴い辞任した。辞任の発表時点での中日ドラゴンズのぺナント順位は2位だったが、結局優勝した。10ゲームの差を引っ繰り返しての優勝なので、本来なら(例えばこれが長島監督とか原監督のようなスター監督ならば)「メーク・ミラクル」だの「メーク・ドラマ」だの大騒ぎになるはずが、監督は交代するだのいまいち盛り上がらない気がする。私は中日ファンではないので中日の優勝とか監督辞任などにそれほど感慨はないが門外漢なりに感ずるところがある。

落合監督には「オレ流」の形容が常に付きまとうことからも分かるように、コンセンサスを勘案するなど日和見的な日本人の気質とは一線を画すイメージがある。私は落合氏と個人的な知り合いでもないし、付き合いがあるわけでもないから、世間が思う落合像とそう大差はないだろう。落合式「オレ流」の背後には、手続論や慣習に囚われない、過去の延長線ではなくゼロベースで発想する、自分なりの確信や信念がある、「我が為すことは我のみぞ知れり」という態度、といったことがあるだろう。これらはある種の権威者や先輩筋からすれば異端であり、不遜で、尊大な態度に移るだろう。「非礼なやつだ」という具合に。実際、中部・東海地方の財界のエライさん達からは「あいさつがない」とかなんとかで評判が悪いようだし、中日OBからも好かれていないようだ(落合氏よりも年長な方は、落合氏を嫌う傾向があるようだ)。

ただそうした年長者の非礼感はさておき、飽くまで野球チームの監督として集団の「機能性の追及」とか「生産性の向上」といった手腕はピカ一な部分があるだろう。しかも優勝したにもかかわらず、辞任とはねえ。ここに非礼とか不遜という「主観的な好き嫌い」を超越した次元でモノゴトを考えられない日本「長老陣」の限界が露呈した感がある。これぞ現代における閉塞感の本尊だ。落合氏のような異才を「うまく使えない日本的組織」はそのままオリンパスに通じるものがあろう。非常にもったいないことだと思う。

新聞などによれば「中日OBからのコーチ採用を落合氏が受け入れず、球団と確執があった」との話だが、こんな内輪の理屈であっさり優勝監督が「殺処分」されるのでは、先が思いやられる。内向き思考な野球の人気はますます低迷し、外に開いたサッカーに水をあけられよう。野球はまさしく日本の斜陽産業そのものだし、他のスポーツ(主にサッカー)の追い上げのため空洞化も激しい。鎖国気質の球団経営で、今後どうするんだろう。

もうひとつ気になったのは「観客動員数の減少」が理由になったことだ。私の記憶では同様の「不人気」が理由で辞任になったのは西武森監督だが、そもそも観客動員数の増減は監督の職責なのか?

野球の監督といえば観客動員数よりもまずチームの勝利(優勝)が優先課題だろう。普通は「チームを強化して優勝させてくれそうな監督」を選ぶはずで、「観客が呼べそうな監督」を選ぶなんてことはなかろう。したがって、パフォーマンス評価も勝率で測るのが筋のような気がする。観客動員数の良し悪しでプロ・スポーツの監督の解任が決まるとは、それこそ異端であり中日球団の「オレ竜」監督人事だ。他では理解されないだろう。

最後に、よしんばプロ野球の監督のパフォーマンスは「ペナントレースでの成績」と「観客動員数の増減」との二つで決まるとしよう。その両方ともが満足のゆくレベルで達成された場合は無条件でOK(続投)だろうし、両方が未達なら解任・交代となるのはわかる。問題は片方が達成されたものの、もう片方は未達で終わった場合、どうなるか?だ。

この場合、非常に裁量的になるだろう。つまり、作戦目的が複数存在し、それらが達成・未達といった成果が「まだら模様」の場合、評価はあいまいにならざるを得ない。

そして、事前に「評価があいまい」になる可能性を秘めていると、作戦遂行時でも「その目的があいまい」になるリスクが増す。なぜなら、誰でも評価プライオリティーの軸に沿って優先的にモノゴトをクリアーしていきたいという動機があるからだ。例えば「ある目的Aは達成したものの、他の目的Bが未達だからダメ」のようないわれをされるのは嫌だろう。だったら、最初にBをクリアーしておきたいと誰でも思うわけで、最初に言ってくれ、ということになる。後からそうした「評価プライオリティー」が公開されても後の祭りでしかない。

うまくいかない会社での人事考課は大抵上記のような「複数の目的→あいまい→現場の混乱→指揮低下」という道をたどる。しかも、会社全体の業績が左前になると、敢えて攻略できなかった部分を大げさに取り上げ、それを個々人の人事評価を下げるためのアリバイに利用しようとするバイアスが組織内に働く。こうした「減点志向の裁量バイアス」とでも呼ぶべきバイアスが蔓延すると組織はますます腐る。

以上から、攻略すべきものが同時に複数あると大抵それは後々の弊害になる。中日球団もスポーツマンシップに則って、そもそも監督が攻略すべき課題をひとつに絞った方がよさそうだ。