先送りする脳

政治でも「先送り」がしばしば問題視されますが、そもそも人間の脳は「都合の悪いことを先送りしがち」なのだそうです。認知心理学者による研究結果によれば、そうした先送り現象は“Delay Discounting"と呼ばれている認知的現象ないしは心理的効果のひとつと考えられています。

今回参考にした論文は
“Resource Slack and Propensity to Discount Delayed Investments
of Time Versus Money”という題名で、
URLは
http://marketing.wharton.upenn.edu/documents/research/resource%20slack%20and%20propensity%20to%20discount%20delayed%20investments.pdf
です。

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論文では、まず最初に、

people expect slack for time to be greater in the future
than in the present.
(人は「いま」はそう余裕がないのだが、将来になれば時間的余裕がきっといまよりも多くできると期待する)

this expectation of growth of slack in the future is more pronounced for time than for money.
(将来、“お金に関する余裕”よりも“時間に関する余裕”が方がより多く増えると考える傾向がある)

と冒頭にあります。

実生活でも、例えば、何かの約束の際に「今は忙しいけど、来週なら時間があるかも」といった場面によく出くわしますが、これぞ「“今”よりも“来週”の方が“時間的余裕が増すはずだ”と勝手に期待している姿そのもの」だ、ということです。実際、来週になると暇や余裕がそれほど存在しない“いつもと変わり映えしない風景である”ことが判明するのですが、また「今は忙しいけど、来週なら時間があるかも」というせりふを繰り返す・・・。

これが「先送り」の言わば“原風景”なのですが、原因は「時間が経過すれば時間的余裕も比例して増加すると思い込みがちな脳」にあるというのです。

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この論文の筆者は“resource slack”(資源の余裕度)という概念を持ち出し、それの主観的な値が時間と共に変化するからだと考えています。そして、彼らの“Resource Slack Theory”によれば、

for time, people perceive less slack now than in the future.
(時間に関して、人は将来よりも今の方が余裕が少ないと理解している)


People often make commitments long in advance that they would never make if the same commitments required immediate action.
(人は、もしそれを直ちに行うとすると到底達成できないようなレベル感の仕事を事前の段階で確約しがちである)

That is, they discount future time investments relatively steeply.
(このことは、人が将来の投下時間額について相対的に急な割引率を持っていることを示唆する)
→「コミットに費やす投下時間が割り引かれる」ため「将来ゆとりが増える」と考えがち。

そして、この傾向は「投下資本」よりも「投下時間」に対する方が大きいそうです。ですから、「面倒なタスク」ほど「タスクに要する時間を割り引きたい」願望が働くでしょうから、先送りされやすいということになります。

ですから、人の脳は「先送り」するのが普通なのです。