ウソの言い回し3

米国で企業が公表した年次財務会計報告書(通称10−K)のうち、後になってから「不正・不適切箇所(Fraud)」が見つかったケースとそうでないケースとを比較すると、“MD&A(Management's discussion and Analysis:経営者の考察と分析)"という箇所での「言い回し」や語呂に違いが見られたという(前回までの話)。

米国でのSEC監査ではグレーゾーン会計(俗に“earnings management”と呼ばれるが)に対して非常にビジラント(vigilant)であり、その「症例」を、いくつかのパターンに類型化している。
それらのパターンとは、

1.creative acquisition accounting, including purchase accounting and in process research and development
(粉飾操作的な買収会計処理)

2.“Big bath” charges to current period, including disposition of long-lived assets
(ビッグバス、文字通り“大きな風呂”だが、“都合の悪いオリやアカを一気に荒い流すといったニュアンス)

3.Fair Value Accounting(適正価格会計)

などがある。

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ところで不正の発覚した10−Kでは、
“purchase method of accounting” (パーチェス法
“goodwill and other intangible assets”(のれん代とその他の無形資産)
“in process research and development”(進行中の研究・開発)
といったフレーズの使用頻度が非常に高いとのこと。

パーチェス法を使って買収した場合、たいていの場合「負ののれん代」が発生。それらは将来にわたって償却しなければならないが、そうすると長期間にわたって「利益の下押し(dragged)」要因となる。そこで、「買収で足が出た部分=負ののれん代」という不都合な事実を「進行中の研究・開発の一部」に紛れ込ませるという手を講じる。結果、その裏返しとして「不正発覚10−K」では上記のようなフレーズが多く登場するというわけ。これらの語句はグレーゾーン会計の類型1とリンクしていたきらいがある。

また、不正の発覚した10−Kでは“long lived assets and”(長期固定資産の”というフレーズがしばしば登場する。経営不振企業では積年の「膿を出す」ための構造改革費用と称して、「長期固定資産の除去コスト」などを一時的に大きく計上することがあるが、その結果「特別損失」(とは言え「現金の流出」はそんなに伴わず。むしろ「構造改革の為の引当金」としてキャッシュがプールされることがしばしばなのだが)が膨大になる。
こうした「リストラ発生会計(リストラクチャリング・アクルーアル)」なども会計操作に利用されるが、これはグレーゾーン会計の類型2のビッグバス会計と関連が深い。

つまり、会計操作のために「リストラ発生主義会計(ビッグバス会計)」を行うが故に、「長期固定資産の・・・云々」といった文言が「不正10−K」では登場するのだと推察される。

他にも、「不正10−K」では
“the fair value of”(の適正価格)
“in foreign currency exchange”(外国為替相場)
といった用語が見受けられるとのこと。これらは、グレーゾーン会計の類型3の「適正(公正)価格会計」と関係していると推察される。会計ルール上、「適正価格の算定」については「市場でトランザクションしたとき妥当な値段」という大まかなガイドラインがあるだけで、実際にどんなメジャーを用いるのかは経営者の裁量、つまり経営者の都合で決められる。すなわち、買収後の企業価値の算定とか外貨建て資産の評価などは、いろいろな有効選択肢の中から最も自分の都合の良いモノを選ぶ事が出来る。そのため、不適切会計の温床になりやすく、不正10−Kでも必然的に fair valueに関するコメントが増加したと思われる。


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反対に、「適正10−K」では、市場リスクやコストのインパクトといったマイナス面への言及が「不正10−K」よりも多くなされており、経営者によるネガティブなコメントがある方が、むしろ信憑性が高いといえる。

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こうした研究が日本でも興隆することを望む。