ウソの言い回し2

おとといの「ウソの言い回し1」の続き。

米国で「その後に不正や粉飾行為が見つかった年次決算報告書(Fraudulent Financial Reports)」と「それらのなかった年次報告書(Non-fraudulent Financial Reports)」とを識別(Discriminate)すつため、

「言い回し文句(Lexical Bundles、レクシカル・バンドル)」

について調べたようです。要は「不正アリ」では良く登場する文句だが「不正ナシ」ではそれほどでもないといった、両者の語彙運用上の格差に注目しています。

注目したフレーズは「4語タイプ(彼らは4-word bundlesと呼んでいる)」で、例えば、
"as a going concern"

"continue as a going"
若しくは
to continue as a"
といったもの。

また年次決算報告書ですが、米国では「10-K」と呼ばれています。その中には、MD&A(Management’s Discussion and Analysis:経営陣の考察と分析)というセクションがあるそうです。今回の分析では全部で202サンプルのMD&Aを使用しています。そして、そのうち101サンプルについて、のちに不正が発覚したとこのとです。

さて、彼らがフレーズに注目したのにはわけがあります。Wrayさんと Perkinsさんが2000年に「自然言語の中では、単語(lexicon alone)句(phrases)の方が変則的用例が少ない」という研究発表をしました。単語レベルだと意味や用例等が沢山あって文脈によっても大いに変化する(これをcontext issue:コンテクスト・イシューと呼んでいます)ので、この手の分析ではエラーやノイズを拾いやすくなるために、やり難いということです。

加えて、お決まり的な「複数語配列表記(multi-word sequences、フレーズのこと)」はレジスター(登録簿や記録簿的編纂物)、例えば、決算報告書、専門的ジャーナル、歴史的ジャーナルといった記録編纂の現場では非常によく登場するそうです。

このことは、文中での「言い回し」に多様性が少ない分だけ、表現形態の中で「書き手に依存する部分(俗人的部分)」が排除されますから、各文書間における語法フォーマットが事実上統一されているともみなせます。そのため文書どうし「銘柄比較」が容易になるという理屈になるようです。

前置きはこのくらいにしまして、本稿での結果を述べたいと思います。

1.不正アリ文書での登場回数>不正ナシ文書での登場回数だった言い回し

①the fair value of (適正価格は)
②in process research and development (進行中の研究開発)
③goodwill and other intangible assets(のれん代と他の無形資産)
④long lived assets and(固定資産と)
⑤purchase method of accounting(会計のパーチェス法

などなど。


2.不正アリ文書での登場回数<不正ナシ文書での登場回数だった言い回し


⑥disclosures about market risk(市場リスクに関する開示)
⑦to continue as a going concern(継続企業として存続)

3.印象操作と疑わしき言い方(impactとeffect)

不正ナシでは“material impact on the(原材料の影響・インパクト)”との表記が優勢なのですが、

不正アリでは“a material effect on(原材料の効果・効力)”
という表記が優勢になっている。

と言う結果です。これは単なる結果ですから考察でも結論でもありません。

考察するに当たって米国経営者の身の上をもう一度確認します。

米経営者(最近は日本でも、でしょう)は株主から収益に対する貢献を強く求められており、常にプレッシャーを受けています。ですから、利益を捻出してでも上げられないのであれば、何らかの利益獲得のストーリを創作しないといけない。

アナリストの予想収益と行ったストリート予想やコンセンサス予想も上回らなければならない。

他方、会計監査は以前より厳格になっており、監査人はリスクアプローチなどの手法を駆使して不正を見抜こうと活動している。したがって、そう簡単に粉飾に手を染めにくくなってきた。

これらを勘案して次回に考察したいと思います。