円高介入の痛し痒し

8月2日の米国のデフォルト危機が回避された。もっとも、その直前での株価は下落基調であったが、一方で米30年債の価格は上昇(利回りは低下)しており、通常のリセッション・モードであった。仮に、デフォルトが不可避であると市場が認識しているのであったならば、株も債券も共に大きく下落していたはずだ。米国債が買い進められていた様子から判断すると金融市場は「デフォルトはないが、リセッションはある」とふんでいたことになる。

金融市場では、今の時点において既に実体経済がリセッション入りしているかどうかということよりも、今後米国では積極財政によるスタミュラス(景気刺激)が取り辛くなったことの方を懸念していると筆者は思う。すったもんだした挙句の債務上限の緩和であるから、借金の「おかわり自由」というわけにはいくまい。これから政府による追加的財政出動には相応の許可は要るだろう。「ダイエットなくしては新たな食事ができない」ようなものだ。ちょっと辛い。

米国債ですら一歩間違えば「デフォルト」になったかもしれないという意識が市場参加者に芽生えた可能性も大きい。リスクフリーリターンの代表格だった米国債にも相応のリスクがあるということだ。あまりにも低い金利で長期債を買うことは、むしろ「リターンフリーリスク」と言うべきかもしれない。

今のところ米国債流動性にそのものには問題は出ていないが、ドル円やドル・スイスフランといった為替相場には影響がでている。スイスフランは対ドルや対ユーロで上昇したため金利を下げた(とはいえ、もともとの水準が低いのだが)。SNBによれば3ヶ月LIBORで0.25%をゼロ水準にするという。

それ以外でも、

ギリシャの銀行株が下落し15年超ぶりの安値を付けた。(8月3日日本時間午後4時34分)時点でギリシャの銀行株指数は2.1%安の782.00と、1996年1月以来の低水準。年初来の下落率は37%を超えている。

といったことが未だにくすぶっているが、米国も既に「棺おけに片足を突っ込んだ」状態であることに間違はなかろう。

そうすると、為替介入などで「棺おけに片足を突っ込んだ国の通貨や債券」を買い進むのはちょいと勇気が必要になってくる。中国などは政治勢力的な拡大のニュアンスをこめてユーロ圏の債券を買うとの約束のような声明を表明しているものの、いつそれらがリップサービスに転化するか分かったものではない。

円高は確かに痛いが、今後米ドルや米債を買うのもちょっと痒みが伴いそうだ。「痛し痒し」とはこのことだろう。日本でもスイスと同様で一段の金融緩和策でしばし対抗するというのが筋と思われる。