ウソ文体の言語学的スタイル分析

ウソとホントでは言い方とか言い回し、或いは語法・文法・時制などに違いが生じるらしい。そうしたクセからウソを見破ろうという言語学的研究が行われている。そして、そうした研究成果を犯罪捜査での供述の真贋判定などに役立てるというのも。もちろん、企業経営者による「供述の真贋判定」にも使えそうだ。

2003年に米国で書かれた“Lying Words"というワーキングペーパーもその一種である。
http://homepage.psy.utexas.edu/homepage/faculty/pennebaker/reprints/Deception.pdf

冒頭に例があるのだが、ざっと説明すると
「我が子を湖で溺死させた母親が架空の誘拐をでっち上げて自分の犯行を隠そうとしたが、ばれて逮捕された」という話。

なぜばれたのか?

彼女が容疑者として浮上する以前に、彼女がレポーターからの質問に対して答えた内容に「彼女が事件の関係者ではないかと疑わせる箇所があった」そうだ。内容といっても具体的な内容ではない。それは、

「過去形」

を使ったということだった。未発見の我が子の生死は未だ不明であり、過去形を使うのは変だ、おかしい、不自然だ、ということになった。
一般論として、事実を知りうる関係者ほど「過去形」(=「断定」)を使う。逆に、この手の供述では、過去時制は「起きた事を確実に知っている者」以外に使用しない時制であるそうだ。

つまり、「過去形」の使用が彼女が失踪事件の重要関係者であることを示したのである。

こうした知見は長らく暗黙知若しくは経験知として職人的かつ俗人的な技能として考えられてきたが、コンピュータによる言語処理ソフトなどを使ってパターン化したり類型化したり、更に統計的な推定モデルを構築することで形式知化することが可能になったり、共有知になりつつあるようだ。

ウソの話はホントの話に比べて、3点ほど語られている。

1.一人称で語る部分が極端に少ない((I, me, and myが登場しない)
2.否定表現が多い(ウソという不正を働いていることが感情面に悪影響を及ぼし、それが悪態に繋がっている)
3.話の構成・筋が単純で「ならでは」のようなフレーズがない(もともと話のリソースがないので)

という特徴があるそうだ。

冒頭に紹介したスタディによれば、

deceptive communications were characterized by
fewer first-person singular pronouns,
fewer third-person pronouns,
more negative emotion words,
fewer exclusive words,
and more motion verbs.

(ウソ文体には次のような5つの特徴がある、
1人称代名詞の使用頻度が少ない、
3人称代名詞の使用頻度が少ない、
嫌悪感を表す語が多い、
「ならでは」(排他的)フレーズが殆どない
動作動詞(行った、来た、歩いた、動いた)が多い)

そして、これらからウソかホントかの判定を65%くらいの精度で出来るそうであり、ヒトが判定した精度よりも良かったそうである。