なでしこチームに見るダメージコントロール術

タコの予言が的中した。女子サッカーW杯での順位予想で、タコによる決勝戦(米国対日本)の事前予想は「日本勝利」だったが、それが見事的中とは。

試合内容は終始スピードやフィジカル勝る米国が優勢のように思えた。ボールも米国が支配する時間の方が多かったと感じる。実際、先制ゴールもカウンターから米国(俊足のモーガン選手、身長170CMだそうで))が決めたし、延長戦でも前半戦終了間際に米国のエースであるワンバック選手によるヘディング一撃が日本ゴールを揺らした。ちなみにワンバック選手の身長は180CMもあり、澤選手は164CMだから身長差では大人と子供だろう。

日本は耐えて、凌いで、我慢して試合を試合として成立させただけでなく、2度のビハインドからよくぞ同点に追いついたと思う。先行されたら焦りも生じるだろうし、浮き足立って集中が途切れたり、気ばかり逸ってタイミングが狂って技が空回りしたりする。特にサッカーは野球やバレーボールと違って時間で終了するので「タイムプレッシャー」がある。目の前の敵に加えて、タイムプレッシャーという敵も厄介だ。

私は小学校1年から高校卒業まで剣道の経験があり、チームの主力メンバーとして公式試合に臨んだ経験があるが、3本勝負で1本先行されると本当にキツい。剣道でも試合時間が区切られており、大体3分から5分なのだが、3本勝負つまり「2本先取勝負」の中、1本先行されたまま取り返せず時間切れとなると、相手が「1本勝ち」となってしまう。だから非常に焦る。しかも、相手も「手練れ」だから、そうそうにタコは食わない。慌てて攻めても攻めても空回りが続き、繰り出す技も単調になり、カウンターを狙うタイミングも狂ってくる。そして焦って自滅というケースも多々あった。

そういう経験からみても、今回の女子サッカーチームの粘りは驚異的だ。焦って自滅もせず、最後まで「同じ調子」を維持して、少ないチャンスをものにした。とてもじゃないが簡単には真似できないし、ちょっとの練習でさくっと身に付く代物ではないだろう。事前に相手を入念に研究したとか、試合現場で冷静に相手を精査したとか、ベンチワークが卓越していたとか、そうした「周辺視野」(見るとはなしに全体を見る力)がモノをいったのではないかと感じる。なでしこチームの完全なる逆境でも諦めないガッツとか精神力も然ることながら、それら頑張りを持続しエンハンストする周辺視野システムが身に染みてないと劣勢から反攻に向かうことは非常に難しい。

こうした見るとはなしに全体を見るという周辺視野システムは格闘技では「殺気などの気配を読み予測する」ために必須だ(ブルース・リーの言った「考えるな、感じろ!」の域だ)。

更に、それに加えてダメージコントロール術にも長けていないといけない。格闘試合をすれば必ず相手から有効な攻撃を喰らうのでダメージコントロール力不在では非常に「もろく」なる。

自分はよくダメージコントロールの欠如の例として「チンピラのケンカ」の喩えを良く使う。

チンピラのケンカとは「自分が優勢だとイケイケ・ドンドン・オラオラで勇ましいのだが、一発ダメージパンチを貰うと形勢逆転、その後は一転して劣勢のまま」というものだ。

これは「しろうと」だとダメージコントロールが上手くできないことを喩えたものだ。格闘技の習得で、まず最初に習うのは「ダメージコントロール」だ。柔道でも受身を習うように、剣道でも身体の左開右開運用(一種のフットワーク術)を習う。

本番では必ず「一発や二発いいのを貰う」のだから、格闘技ではそうした逆目な環境下のおける「リスク管理システム」を習うのだ。柔道での受身、ボクシングではクリンチ、剣道では相手の打ち気をそらしたりいなしたり、身体を右に運用したりなどが相当する。こうした「受身」とか「クリンチ」とか「身体の左開右開運用」とか、練習内容としては地味なのだか、本番では自らの体勢の立て直しのために実に有益なのだ。本番で一発や二発貰ってもダメージを回復させつつ、冷静になる時間を稼ぐのだ。

なでしこジャパンはそこにも優れていたのだろう。素晴らしいダメージコントロール術だと思う。